2016.10.9

「Can’t Take My Eyes Off You」のコンテンポラリーなウクレレ・アレンジがいい!──ハワイ島ヒロの新鋭、クリス・フチガミ

ハワイ島ヒロ出身の新進ウクレレ・プレイヤー、26歳のクリス・フチガミがこの夏初めて、日本のフェスティバルに出演(写真は、ふなばしハワイアンフェスティバル)。彼がハワイの音楽動画チャンネルHi*Sessionsで見せたコンテンポラリーなプレイ・スタイルはウクレレ好きの間で注目を集め、2017年にはニュー・アルバムを引っさげての再来日が予定されています。今年100周年を迎えたカマカが推すアーティストでもあり、これからの躍進が期待されるクリスが、本誌のインタビューに応じてくれました(聞き手/トイズミュージックスクール主宰・おもたにせいじ)。

DSC02898──ハワイ島ヒロ出身ということですが家族は?
「両親と姉もヒロにいます。ぼくは4人きょうだいの3番目で、ほかに兄と妹がいます」

──ライブではお母さんのケイコさんがピアノでサポートしていますが、家族は音楽をやるのですか?
「ぼくに最初にウクレレを教えてくれたのが兄ですが、シンプルなストラミング程度の曲で、その後は自分で学びました。でも父は以前スラックキー・ギターを弾いていたし、妹は学校の楽団でクラリネットをやっています。ぼくはウクレレのほかにギター、ドラム、ベースも弾きます」

──ウクレレは独学ですか? 本格的に弾き始めたきっかけは?
「ぼくが13歳の夏休み、母が日本に帰省してしまって暇だったので、以前ウォルマートで買った古いウクレレを取りだして弾いてみたんです。音楽の先生がジェイク・シマブクロの話をしていたのを思い出して、パソコンに「Jake Shimabukuro」と入力したら彼の「Toastmaker’s Revenge」(16ビートの超スピードでストラミングする”バカ”テク曲)の10秒程度の映像が見つかった。当時はまだYouTubeなんてなかった時代。ちゃんとした音源を見つけ、それを何度も何度も聴いてコピーしたら、その日の終わりには弾けるようになっていました(笑)」

──すごい! ウクレレの基礎知識はあったのですか?
「いや、何も知らなかった。とにかく同じ音を探して、彼のストラミングやピッキングのパターンを耳コピーしました」

──影響を受けたのはジェイク・シマブクロ?
「初期の頃はそうです。でも19歳頃から自分の音楽を作るようになると、ウクレレ・プレイヤー以外の音楽も聴くようになった。ヒップホップも、クラシックも、R&Bも、すべてがぼくの今のスタイルの礎になっています。好きなアーティストにはカルロス・サンタナ、ギタリストのトミー・エマニュエル、アリアナ・グランデ、母がよく聴くマライア・キャリーやホイットニー・ヒューストン、ボーイズ・Ⅱ・メンなどがいます。そしてヒップホップなら、ぼくは2PAC の大、大ファン(笑)」

IMG_0149──初めてぼくがクリスのステージを見たのは、2012年のウクレレ・ピクニック・イン・ハワイです。マーク・ヤマナカと一緒に演奏していました。マークとはどうやって知り合った?
「彼とは2011年頃だったか、フェイスブックを通じて知り合いました。ぼくから友達リクエストを送ったら、マークから “すでに君のことはビデオを見て知ってるよ、会わないか”とメッセージが来て。会って話をするうちに“数カ月後にウクレレ・ピクニックに出演するけれど一緒に演奏しないか”と誘ってくれたんです。2007年頃からぼくはジェイクのコピーなどの演奏ビデオをアップしていて、マークはそれを見ていたんですね。以来、彼とは仲の良い友達」

──マークはハワイアン・ミュージシャンなので、クリスもハワイアン・スタイルのミュージシャンだろうと思ったけれど、後でCDを聴くとまったく音楽性が違っていて驚きました。
「(笑)マークはハワイアン・スタイルのプレイヤーなので、彼の伴奏をするときはハワイアンに。誰と演奏しようと、相手に合わせたスタイルで伴奏するようにしています。でもあのときマークとは、『Dueling Banjos』というバンジョーの曲をウクレレでやったりもしました」

──そう! あれからクリスのことは注目していました。特にHi*Sessionsで演奏した「Can’t Take My Eyes Off You(1967年のフランキー・ヴァリによるヒット曲、邦題「君の瞳に恋してる」)」。あのコード・アレンジが独特ですごくいい。どうやってああいうアレンジを考えるのかな。
「ありがとうございます。ウクレレにアレンジするときいちばん重要なのはキーですよね。ウクレレは2オクターブしかない楽器なので、キーによって弾くポジションが異なり、音色にも影響します。あの曲にはCのキーがぴったりくることが分かった。あとはキーボード、ドラム、ベースのアレンジをすれば完成!」

──クリスはいつもカマカを弾いていますね。カマカの魅力は?
「カマカはトーンが温かく、激しくストラミングしても温かい。ウクレレの中には激しいストラミングをすると音が散るものもあるけれど、カマカは音がバラバラにならず、完璧に耳に入ってくるとぼくは思っています。今使っているのはカスタムメイドのテナー」

IMG_0208──フレットボードに「渕上光男」と漢字で名前が入っていますね。
「ミツオはぼくのミドル・ネームなんです」

──お母さんのケイコさんは日本生まれですか?
ケイコさん「今はアメリカ国籍ですが、山口県生まれです。日本の高校卒業後ハワイの大学に入りました。夫は熊本から移住した日系4世なので、クリスは5世とも言えますね」

──弦やピックアップは何を使っていますか?
「ダダリオ弦です。ダダリオは元々クラシック・ギターの弦なので強くて丈夫。ステージで激しいストラミングをすると突然弦が切れることもあるけれど、ダダリオなら安心です。ソフトに弾いてもハードに弾いても音が良い。ピックアップはFishmanのMatrix Infinity。エフェクターはLINE 6のものを使っています」

──かなり激しいストラミングをするんですね。
「そう。しかも人差し指のツメがあまり強くないので、ソフトなストラミングのときは代わりに中指を使うようにしています。19歳の頃、店で演奏していたら最後の最後で指2本のツメが割れたことがあって、ジェイクに相談したら彼のアドバイスは“プールの塩素水も、海水も、ツメを乾燥させるのでダメ、そしてゼラチンを摂取せよ(タンパク質が多く含まれるため)”でした。今は海やプールに入らないので、ツメも割れなくなりました」

──泳がないんだ。
「泳ぎたいですけどね(笑)」

──地元ヒロでは今もHilo Guitars & Ukulelesでウクレレを教えていますか?
「はい。14〜15歳の頃自分があそこでレッスンを受けていたことを考えると、今そこで教えているなんて不思議な気持ちです。ぼくの日常は、ヒロの食料品店倉庫で朝7時から4時までのフルタイム労働に始まります。フォークリフトを操縦する仕事ですね。就業後4時半から8時までヒロ・ギターズでウクレレ・レッスン、帰宅後は自分の練習、音楽作り、音楽関係のメール処理。そして週末は演奏のため各地を回ります。ハワイだけでなく、アメリカ本土、タヒチ、韓国、グアムなどへも」IMG_0247

──今度ハワイ島に行ったらヒロ・ギターズに寄ります。これからの活躍を期待しています。
「ぜひ! ありがとうございます」
(構成/松田ようこ)

Kris Fuchigami プロフィール
1990年6月5日生まれ、ハワイ島ヒロ出身。13歳からウクレレを弾き始め、15歳でHamakua Music Scholarship Competitionで優勝。ジェイク・シマブクロ、マーク・ヤマナカ、ダニエル・ホー、ブリットニー・パイヴァなどハワイアン音楽界のビッグネームたちと共演してきている。
http://www.krisfuchigami.com/

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